レイ・チェン
レイ・チェンの名声は輝かしい受賞歴にとどまらず、史上最年少の27歳でユーディ・メニューイン国際コンクールの審査員を務めるなど突き抜けたものがあるのですが、なぜか日本では知られていません。
モーツァルト:バイオリン協奏曲第3番・第4番、バイオリンソナタ第22番
2016年現在でレイ・チェンの最新のレコーディングがこちら。2014年1月発売なので録音は2013年でしょうか。
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番・第4番 他 (Amazon)
Mozart: Violin Concertos & Sonata (iTunes)
曲目
- モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K216 第1楽章 アレグロ
- モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K216 第2楽章 アダージョ
- モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K216 第3楽章 ロンド
- モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番 ニ長調 K218 第1楽章 アレグロ
- モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番 ニ長調 K218 第2楽章 アンダンテ・カンタービレ
- モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番 ニ長調 K218 第3楽章 ロンド
- モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第22番 イ長調 K305 第1楽章 アレグロ・ディ・モルト
- モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第22番 イ長調 K305 第2楽章
演奏者
華やかで自由自在なスタイル
一貫して明るく透明な音色で、デュナーミクが華やかに大きく、「お茶目なモーツァルト」を演じきったという印象です。第1楽章の7:56あたりで微妙に音程外してたりするのはご愛嬌。動作は終始身軽でなめらかです。エッシェンバッハも調子を合わせてポンポン弾む軽い感じで振ってます。
プロフィールで触れますが、レイ・チェンはドロシー・ディレイの系譜に位置付けられます。ディレイ系と思って聞けばむべなるかなと思えるポップ感と安定感が魅力です。
レイ・チェンとは?
レイ・チェン(Ray Chen、陳銳)は台湾生まれオーストラリア育ちのバイオリニスト。1989年3月6日台北生まれ。以下主にWikipediaから。
神童オリンピックの幕を開ける
4歳でバイオリンを始め、オーストラリアのクイーンズランドで鈴木メソッドの教育を受けます。いつ台湾からオーストラリアに移ったかは未確認。8歳でクイーンズランド交響楽団を相手にソロ演奏をしています。1998年の長野オリンピック開会式でも演奏しました。マジか。当時8歳。
1999年には、オーストラリアのラジオ局の4MBSによる「Young Space Musician of the Year」に選ばれました。最も若く才能ある音楽家としてオーストラリア音楽試験委員会(AMEB)によるシドニー・メイ記念学位を獲得。11歳でAMEBの免許を取得。AMEBというのがオーストラリアでどういう位置付けなのかよくわかりませんが、なにしろ超飛び級で音楽大学を出たに近い何事かだろうと思います。
13歳でオーストラリア国家ユース・コンツェルト競技会で優勝。2002年でしょうか。2004年にユーディ・メニューイン国際コンクールのジュニア部門で3位。
2005年にはオーストラリア国家ケンドール・バイオリン競技会で優勝。固有名詞は適当に訳してます。
2006年と2007年の夏に、クリーブランド音楽大学の夏季限定セッションであるアンコール弦楽スクールに参加。そこでデイヴィッド・セロンDavid Ceroneに教わります。2008年にはアスペン音楽祭に参加。アスペン音楽祭というのは演奏家の教育目的で開かれるもので、つまりチェンとしては武者修行に行ったということですね。ここでチョーリャン・リン、ポール・カンターに教わります。full tuition fellowshipというのはたぶん、完全学費免除の特待生ということでしょう。リン、カンターともにドロシー・ディレイの高弟。というわけでレイ・チェンはディレイの嫡孫と言ってよさそうです。
2008年4月、メニューインのシニア部門で優勝。当時19歳。審査員だったマキシム・ヴェンゲーロフの目に留まり、ヴェンゲーロフが指揮するマリインスキー劇場管弦楽団とペテルブルグで共演してデビューを飾ったうえ、続いてアゼルバイジャンの首都バクーで開かれた国際ロストロポーヴィチ音楽祭でState Symphony Orchestraと共演。ヴェンゲーロフもザハール・ブロンの弟子、すなわちディレイの系譜にある人です。
チェンの学業はカーティス音楽大学でアーロン・ロザンドの指導のもとに学士号を取得してひとまず完成します。
学位取得後の演奏活動
2009年、エリザベート王妃音楽コンクールで優勝。
2010年にソニー・クラシカルと契約。同じ2010年にオーストラリアのメルバ・レコーディングスMelba Recordingsからストラヴィンスキーの録音を出していますが、ソニーの前ということでしょうか。ソニーからは初の2011年に出たアルバムがその名もVirtuoso。移籍後第1作でヴィルトゥオーゾだぜ。まあエリザベートの優勝者は4年に1人ぐらいしか出ないので、その一点を取ってもヴィルトゥオーゾを名乗る資格はあるでしょう。メニューインの公式サイトトップページで、過去の受賞者を代表してチェンの顔が大きく使われていることからもその名声が窺い知れるというものです。Virtuosoの中身はバッハ・フランク・タルティーニ・ヴィエニヤフスキーです。
2012年にはチャイコンとメンコンの録音も出しています。
同じく2012年、毎年12月8日に開かれるノーベル賞コンサートでブルッフの協奏曲第1番をロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団と共演。
2016年には縁深いメニューインコンクールで史上最年少の審査員を務めます。使用楽器は「1715年製のストラディバリウス「ヨアヒム」」という記述がある一方で、2009年から3年間は日本音楽財団からストラディバリウス「ハギンズ」を貸与されていたとあり、仮にブランクがないとすればソニーの最初の2枚は「ハギンズ」で、最後のモーツァルトは「ヨアヒム」で録音されたことになります。
楽器には詳しくないのですが、「ヨアヒム」ってヨーゼフ・ヨアヒムのことでしょうか。近代バイオリンの始祖というべき人の名前を背負って演奏するってすごいですね。
ちゃらいディレイで何が悪いのか
レイ・チェンはちょっと聞けば「わかりやすい変化を強調し、メカニックが正しく、その反面個性的な音色を出すことはまれ」というディレイ系の特徴を強く表しています。
しかし、お人形のように行儀のいい演奏で何が悪いのかと思わされる人が多いのもまたディレイ系のクオリティです。レイ・チェンの明るく華やかな音色はその代表と言いたいところがあります。
居並ぶ個性派の演奏を聞き疲れて、たまにはヌルく頭悪く、BGMとして音楽を流してみたいときにレイ・チェンはお勧めできます。
と言うと褒めてるのか貶してるのかわかりませんが、そんなレイ・チェンが大好きです。