日本人が知らないバイオリニスト

好きなバイオリニストのことを書きます。内容はすべて主観です。

セルゲイ・クリロフ

なぜか日本でだけ知られてないバイオリニストと言えば、セルゲイ・クリロフが代表格ではないでしょうか。

ロストロポーヴィチが「セルゲイ・クリロフは現代のバイオリニストでトップ5に入る」と絶賛したことでも知られる人なのですが。

 

モーツァルト:バイオリン協奏曲第5番「トルコ風」/タルティーニ:バイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」

クリロフでおすすめの一枚がこちら。

Mozart: Violin Concerto No. 5 in A Major "Turkish" - Tartini: Violin Sonata in G Minor "Devil's Trill" (CD)

https://itun.es/jp/h221_iTunes

モーツァルト:バイオリン協奏曲第5番

演奏者はこちら。

  • セルゲイ・クリロフ - Sergej Krylov(バイオリン)
  • リトアニア室内管弦楽団 - Lithuanian Chamber Orchestra
  • サウルス・ソンデツキス - Saulius Sondeckis(指揮)

ソロが始まった瞬間「え?」となってしまう独特の音色が魅力です。堀米ゆず子の演奏法と少し似てるような気がします。

僕はにわかなので表現を知らないのですが…、ガットっぽいなめらかでケバのない音色が一貫していて、ノートの境界は常に角を立てずさらりと移行します。

楽器は何を使ってるのかわかりません。堀米ゆず子はグァルネリですが、比べて聞くとクリロフのほうが響きが浅いようです。ツルツルした感じが演奏法とよく噛み合ってるようにも思います。

タルティーニ:バイオリン・ソナタ ト短調 「悪魔のトリル」(H. カウダーによるバイオリンと管弦楽編)

  • セルゲイ・クリロフ - Sergej Krylov (バイオリン)
  • リトアニア室内管弦楽団 - Lithuanian Chamber Orchestra
  • サウルス・ソンデツキス - Saulius Sondeckis (指揮)

モーツァルトと同様、ツルツルした演奏です。たとえばミルシテインの「悪魔のトリル」と聞き比べても、「貴公子」ミルシテインが荒っぽく思えるぐらい、クリロフはクールです。そしてきわめてエキゾチックです。もっちりしてます。

もっちりと言ってもわからないと思いますが…、ディテールが省略されているだけ骨格の印象が強く、特にデュナーミクが安定してるという意味です。聞けば聞くほど、腰が据わった感じがじわじわ来て楽しくなってきます。

セルゲイ・クリロフとは?

以下英語版Wikipediaを参照しつつ。

セルゲイ・クリロフはロシアとイタリアのバイオリニスト、指揮者。1970年12月2日生まれ。当時ソ連のモスクワ出身。セルゲイはWikipediaの中だけでもSergei、Sergey、Sergejと揺れてますが、マネジメント会社のサイトによればSergejのようです。

父はバイオリン製作者、母はピアニストという音楽一家に生まれました。

バイオリンを始めたのは5歳。1年後には(6歳で!)コンサートを開いています。10歳までにはモスクワ音楽院に入ってオーケストラデビューを果たしました。16歳でレコードも出しています。

…バイオリニストの経歴ってこういう感じのが多いですよね。ヤッシャ・ハイフェッツは5歳でアウアーに弟子入りし、7歳でメンコンでデビューしたと言いますから、それに比べればクリロフはまあ、あるかなって範囲じゃないかと思います。

クリロフはその後順調に世界で活躍を続けます。

  • 1989年 ロドルフォ・リピツァー賞優勝
  • 1993年 チリ批評家賞「年間最優秀外国人演奏者」
  • 1997年 チリ批評家賞「年間最優秀外国人演奏者」(2回目)
  • 1998年 アントニオ・ストラディバリ国際バイオリン競技会優勝
  • 2000年 フリッツ・クライスラーバイオリン競技会優勝

演奏した国、数知れず。東京にも何度か来ているようですが、なぜか日本ではさほどの人気がない模様。

共演したオーケストラはシュターツカペレ・ドレスデンほか。

共演した指揮者にはワレリー・ゲルギエフ、ウラディミール・アシュケナージ、ミハイル・プレトネフ、ファビオ・ルイジ、ユーリ・バシュメットなど。

室内楽でミッシャ・マイスキーと共演したこともある模様。今井信子とも共演してます。

2008年からはリトアニア室内管弦楽団の主席指揮者に。

2012年にはスイスのルガーノ音楽美術大学の教授になっています。

イカラ趣味だけじゃないクラシックを聞きたい人におすすめ!

セルゲイ・クリロフは、9割がたの日本人が「クラシック」と言われて想像するものとはかなり違った感覚の音楽です。

バイオリンはギシギシきしんで繊細にすすり泣くものだと思ってる人からすれば、クリロフのもっちりしたエキゾチックなバイオリンはピンと来ないでしょう。

しかし、クリロフの演奏を聞くと、バイオリンにはもっといろいろなことができると思わされます。

クラシックと言えば憧れのヨーロッパの伝統で、由緒正しく、お上品で…といったイメージで音楽を消化してしまいたくない人にはセルゲイ・クリロフがおすすめです。

来年1月21日には東京芸術劇場で演奏するらしいので、興味が湧いた方はぜひ。

 

ヴィヴァルディ:バイオリン協奏曲(RV249)/四季/バイオリン協奏曲(RV284)

The Four Seasons, Concertos RV 249 & 284 (Amazon)

Vivaldi: The Four Seasons (iTunes)

追記です。1月21日の公演に思い立って行くことにしてみました。

そんなわけで予習のためもう一枚聞いてみました。ヴィヴァルディはすごい数のバイオリン協奏曲を書いていて、「ニ短調」「へ長調」と言ってもそれぞれ無数にあるので作品番号で呼ばざるをえないようです。

モーツァルトのときのクールな演奏から一変して、若干の軋みを出し、緩急・抑揚もかなり強くなりました。しかしツルツルした音の出し方、特に早弾き部分を淡々と弾きこなすときのしれっとした表情は健在です。

モーツァルトのときは禁欲的なまでに徹底した「なめらかさ」の美意識がありました。禁欲的なあまり、「普通の」クラシックの演奏を聴き慣れた人には物足りなく思えるかもしれない。しかし表現を縛った中にこそ集中して腰の据わった芸を楽しむ余地がある。そんな印象でした。

今回もクリロフ一流のクール芸はそこかしこで顔を出しています。導入のニ短調の3楽章なんてはっきりしています。音の境界を決して荒立てず、音色も強さも急に変えない。ツルツルでもっちりです。

しかし、続いて「春」の有名な出だしの部分はむしろ明るく楽しく、かわいい音を出してさえいる。モーツァルトのときよりはるかに多くの人に愛されそうな演奏に変わっています。「セルゲイ、偉くなったんだな」と思わされます。それでもなおクールな表情は損なわれず、かえって引き立っているように思えます。こういうのを「幅が広がった」と言うのでしょうか。

四季の中では「冬」がお気に入りです。新しいスタイルでシャープに切り込んでいて、ミーハーな言い方をすれば「粉雪が舞うような」透明感と軽やかさがあります。

手元にあるサルヴァトーレ・アッカルドの演奏と比べると、アッカルドは全体にゆっくり、チェンバロを強調した録音で、バイオリンはおとなしめです。そしてやはり「バイオリンの音」が出ています。弦をこする様子、隣の弦に移る様子がはっきり聞き取れます。クリロフは改めてどこから音が出てるのかわからないですね。モーツァルトのとき強烈に感じたことですが、もはやバイオリンの音を逸脱したと言いたい個性があります。録音でもめいっぱいバイオリンを強くしてます。「エキゾチック」から大衆性を獲得して「個性派」に進歩を遂げたクリロフの独特の表現を楽しめるアルバムになっています。

収録曲

  1. Vivaldi: Concerto in D minor for Violin and Strings, Op.4/8 , RV 249 - Allegro-Adagio-Presto
  2. Vivaldi: Concerto in D minor for Violin and Strings, Op.4/8 , RV 249 - Adagio
  3. Vivaldi: Concerto in D minor for Violin and Strings, Op.4/8 , RV 249 - Allegro
  4. Vivaldi: Concerto for Violin and Strings in E, Op.8, No.1, RV 269 "La Primavera" - 1. Allegro
  5. Vivaldi: Concerto for Violin and Strings in E, Op.8, No.1, RV 269 "La Primavera" - 2. Largo
  6. Vivaldi: Concerto for Violin and Strings in E, Op.8, No.1, RV 269 "La Primavera" - 3. Allegro (Danza pastorale)
  7. Vivaldi: Concerto For Violin And Strings In G Minor, Op.8, No.2, RV 315, "L'estate" - 1. Allegro non molto - Allegro
  8. Vivaldi: Concerto For Violin And Strings In G Minor, Op.8, No.2, RV 315, "L'estate" - 2. Adagio - Presto - Adagio
  9. Vivaldi: Concerto For Violin And Strings In G Minor, Op.8, No.2, RV 315, "L'estate" - 3. Presto (Tempo impetuoso d'estate)
  10. Vivaldi: Concerto for Violin and Strings in F, Op.8, No.3, R.293 "L'autunno" - 1. Allegro (Ballo, e canto de' villanelli)
  11. Vivaldi: Concerto for Violin and Strings in F, Op.8, No.3, R.293 "L'autunno" - 2. Adagio molto (Ubriachi dormienti)
  12. Vivaldi: Concerto for Violin and Strings in F, Op.8, No.3, R.293 "L'autunno" - 3. Allegro (La caccia)
  13. Vivaldi: Concerto For Violin And Strings In F Minor, Op.8, No.4, RV 297 "L'inverno" - 1. Allegro non molto
  14. Vivaldi: Concerto For Violin And Strings In F Minor, Op.8, No.4, RV 297 "L'inverno" - 2. Largo
  15. Vivaldi: Concerto For Violin And Strings In F Minor, Op.8, No.4, RV 297 "L'inverno" - 3. Allegro
  16. Vivaldi: Concerto in F for Violin and Strings, Op.4/9 , RV 284 - Allegro
  17. Vivaldi: Concerto in F for Violin and Strings, Op.4/9 , RV 284 - Largo
  18. Vivaldi: Concerto in F for Violin and Strings, Op.4/9 , RV 284 - Allegro

演奏者

  • Sergej Krylov(セルゲイ・クリロフ):バイオリン
  • Lithuanian Chamber Orchestra(リトアニア室内管弦楽団):オーケストラ

指揮者がクレジットされてないので未確認です。バイオリンを立てている演奏ですが、クリロフの音とかなり趣味が一致しているように思います。

 

思い立って行くことにしてみました。ここを見ている方でもし行かれる方がいれば会場でお会いしましょう。

 

そんなわけで予習のためもう一枚聞いて見ました。

 

ヴィヴァルディ:四季/バイオリンと弦楽のための協奏曲ニ短調

モーツァルトのときのクールな演奏から一変して、若干の軋みを出し、緩急・抑揚もかなり強くなりました。しかしツルツルした音の出し方、特に早弾き部分を淡々と弾きこなすときのしれっとした表情は健在です。

モーツァルトのときは禁欲的なまでに徹底した「なめらかさ」の美意識がありました。禁欲的なあまり、「普通の」クラシックの演奏を聴き慣れた人には物足りなく思えるかもしれない。しかし表現を縛った中にこそ集中して腰の据わった芸を楽しむ余地がある。そんな印象でした。

今回もクリロフ一流のクール芸はそこかしこで顔を出しています。導入のニ短調の3楽章なんてはっきりしています。音の境界を決して荒立てず、音色も強さも急に変えない。ツルツルでもっちりです。

しかし、続いて「春」の有名な出だしの部分はむしろ明るく楽しく、かわいい音を出してさえいる。モーツァルトのときよりはるかに多くの人に愛されそうな演奏に変わっています。「セルゲイ、偉くなったんだな」と思わされます。それでもなおクールな表情は損なわれず、かえって引き立っているように思えます。こういうのを「幅が広がった」と言うのでしょうか。

四季の中では「冬」がお気に入りです。新しいスタイルでシャープに切り込んでいて、ミーハーな言い方をすれば「粉雪が舞うような」透明感と軽やかさがあります。

手元にあるサルヴァトーレ・アッカルドの演奏と比べると、アッカルドは全体にゆっくり、チェンバロを強調した録音で、バイオリンはおとなしめです。そしてやはり「バイオリンの音」が出ています。弦をこする様子、隣の弦に移る様子がはっきり聞き取れます。クリロフは改めてどこから音が出てるのかわからないですね。モーツァルトのとき強烈に感じたことですが、もはやバイオリンの音を逸脱したと言いたい個性があります。録音でもめいっぱいバイオリンを強くしてます。「エキゾチック」から大衆性を獲得して「個性派」に進歩を遂げたクリロフの独特の表現を楽しめるアルバムになっています。

 

追記。このとき行くはずだった公演、キャンセルになってしまいました。残念。チケットは買ってしまっていて、問い合わせたところ払い戻しはできないとのこと。代演の人は知らない人だったので行かなかったのですが、それって買ったときとは全然別の公演なので同じチケットで聞けるというのもおかしな話のような……。そういうものなんでしょうか。