日本人が知らないバイオリニスト

好きなバイオリニストのことを書きます。内容はすべて主観です。

ジェニファー・パイク

ジェニファー・パイクは26歳という若さですでに渋みと上品さのある録音をいくつも残し、各国の作曲家から愛されている人なのですが、残念なことに日本ではあまり知られていないようです。

 

ドヴォルジャークヤナーチェク/スーク:バイオリン&ピアノ曲

ジェニファー・パイクの表情豊かな演奏が聞けるおすすめの一枚がこちら。

Dvořák, Janáček & Suk: Music for Violin & Piano (Amazon)

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演奏

  • ジェニファー・パイク(Jennifer Pike):バイオリン
  • トム・ポスター(Tom Poster):ピアノ

曲目

  1. Sonata for Violin and Piano, JW VII/7: I. Con moto - Adagio - Tempo I, un poco piu mosso - Meno mosso - Adagio - A tempo - Tempo I - Adagio - Tempo I, un poco piu mosso - Meno mosso - Adagio - A tempo - Meno - Adagio
  2. Sonata for Violin and Piano, JW VII/7: II. Ballada - Con moto – Meno mosso - Tempo I - Meno mosso - Poco mosso - Tempo I - Meno mosso
  3. Sonata for Violin and Piano, JW VII/7: III. Allegretto - Meno mosso - Tempo I - Da capo al fine
  4. Sonata for Violin and Piano, JW VII/7: IV. Adagio - Un poco piu mosso - Poco mosso - Poco piu mosso, rubato con crescente emozione - Maestoso - Adagio - Tempo I
  5. Dumka, JW VII/4
  6. Romance, JW VII/3
  7. Allegro, JW IX/9
  8. 4 Pieces, Op. 17: No. 1. Quasi Ballata: Andante sostenuto - Adagio - Tempo I - Piu mosso - Andante sostenuto - Adagio - A tempo
  9. 4 Pieces, Op. 17: No. 2. Appassionato: Vivace - Meno mosso - Tempo I - Poco piu mosso - Tempo I - Meno mosso - Tempo I - Piu mosso
  10. 4 Pieces, Op. 17: No. 3. Un poco triste: Andante espressivo - Moderato - Tempo I - Moderato - Tempo I
  11. 4 Pieces, Op. 17: No. 4. Burleska: Allegro vivace - Pochettino meno mosso - Andante - Tempo I
  12. 4 Romantic Pieces, Op. 75, B. 150: No. 1. Allegro moderato
  13. 4 Romantic Pieces, Op. 75, B. 150: No. 2. Allegro maestoso
  14. 4 Romantic Pieces, Op. 75, B. 150: No. 3. Allegro appassionato
  15. 4 Romantic Pieces, Op. 75, B. 150: No. 4. Larghetto
  16. Nocturne in B Major, Op. 40, B. 48a

1から7がヤナーチェク、8から11がスーク、12から16がドヴォルジャークです。

あふれる大物感

2014年7月発売で、おそらく直前の録音。演奏者24歳にしてすでに大物感あります。

使用楽器は1708年製のマッテオ・ゴフリラー。ストラディバリ・トラストから貸与されたものです。2015年のアマーティのインタビューでは、「ストラドかグァルネリが屋根裏にあって貸してもいいよって人がいたらノーとは言わないけど」と萌え発言をしています。

音色の変化が豊かな中でもしっかりと筋の通った感じがするのは、節々で抑制が効いているからでしょうか。渋みを出しつつ、きしませた音は嗜む程度です。デュナーミクアゴーギクともに大きめで、その点だけ取れば派手な演奏にも思えますが、音が小さいほうはスッパリと切り落とし、ヴィブラートは大きくゆったりと取っている結果、とてもどっしりと落ち着いた感じがします。相方のトム・ポスターも抑制的でありつつ気の利いた明るい音を出しています。

どの曲もいいですが僕はスークが好きです。

ジェニファー・パイクとは?

以下主に本家Wikipediaから。ジェニファー・パイクはイギリスのバイオリニスト。1989年11月9日生まれ。イギリス人とポーランド人の混血である模様。お父さんは作曲家。Twitter@ViolinJenny 。バイオリンジェニーかわいい。

2002年に当時史上最年少の12歳でBBCヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー競技会で優勝し、その後6年間、2008年にトロンボーンのピーター・ムーアが同じ12歳の6週間差で塗り替えるまで最年少記録保持者でした。なおムーアの記録は2016年現在まで破られていません。

レディ・マーガレット・ホール卒業まで

パイクは5歳でバイオリンを始めました。8歳のときにオーディションを通過してチータムズ音楽学校に入学します。10歳のときにはチャールズ皇太子が聞くコンサートで演奏。協奏曲のデビューは学校のオーケストラとハイドント長調協奏曲を演奏したとありますが、これを「デビュー」と呼ぶべきかは若干疑問を感じますね。

次いでロンドンのギルドホール音楽演劇学校に移り、デイヴィッド・タケノの指導を受けます。デイヴィッド・タケノという人は東京生まれでニュージーランドでデビューしたという変わった経歴の持ち主であるらしく、系譜上どこに位置付けられるのか不明です。

パイクは2012年にオックスフォード大学レディ・マーガレット・ホールを首席で卒業します。卒業時で22歳か23歳。

受賞・演奏活動

BBCの受賞は2002年。チータムズ在学中なのかギルドホールに行ってからなのか、それとも間に別の時期があるのか、ちょっと不明です。受賞した演奏はメンコン、相手はサー・アンドルー・デイヴィス指揮のBBC交響楽団。同じ2002年にはユーディ・メニューイン国際コンクールのジュニア部門で4位。メニューインのほうも年少記録であったようです。

2005年にはBBCロームスで演奏しています。毎年夏開催なのでパイク15歳。

2008年から2010年の間、BBCラジオ3新世代アーティストスキームのメンバーでした。

2012年4月19日にはアンドルー・マンゼ指揮のBBCスコットランド交響楽団とバッハ、ヴォーン=ウィリアムズを演奏したコンサートがBBCラジオ3で放送されました。

2014年8月4日、第一次世界大戦開戦100周年を記念して、ウェストミンスター寺院でヴォーン=ウィリアムズの「揚げひばり」を演奏しています。

受賞歴としてinternational London Music Masters Award、クラシック演奏家として史上唯一のSouth Bank Show/Times Breakthrough Award。

Prince's Trust and Foundation for Children and the Artsのアンバサダー、Lord Mayor's City Music Foundationのパトロン…という横顔もあるらしいのですが、ちょっと固有名詞が詳細不明すぎるので引いただけにしておきます。

共演した指揮者にアンドリス・ネルソンスなど。室内楽で共演した人にアンネ=ゾフィー・ムター、ニコライ・スナイダーなど。名古屋フィルハーモニー交響楽団とも共演したとあるので来日している模様です。

献呈された曲

パイクはHafliði Hallgrímssonのバイオリン協奏曲を献呈され初演しているとあります。問題はアイスランド出身のこの作曲家の名前をどう読むかなのですが、日本語だと「ハフリディ・ハルグリムソン」と書いた例がちょっとだけ見つかります。ただ発音サイトなんかで聞くと「ハブリディ・ハスグリムソン」と聞こえます。

イギリス出身の作曲家シャーロット・ブレイからもScenes from Wonderland「ワンダーランドの情景」という曲を献呈され初演。

オーストラリアのアンドリュー・シュルツからもバイオリン協奏曲とソナチネを献呈されレコーディングし、オーストラリアクラシック音楽賞の「オーストラリアの曲の最優秀演奏」を受賞しています。

ちょっと信じられないぐらいのモテモテぶりですね。1941年生まれのハスグリムソンと1982年生まれのブレイが並ぶというのがなんとも。

ほかの録音

疲れてきたのでディスコグラフィはそのうち気が向けば追記するとして…。

フランク/ドビュッシーラヴェルのバイオリンソナタ集もおすすめです。Amazonが品切れなのでやむなくヤナーチェクのほうを紹介しましたが、こちらも好きなので載せておきます。

Franck / Debussy / Ravel: Violin Sonatas (Amazon)(品切れ)

Debussy - Ravel - Franck (iTunes)

こちらは2011年の作。やはり堂々とした演奏で、フランクなんてむしろ「こんなに雄々しくしちゃっていいのかな…」という感じさえあります。

ヤナーチェクと聞き比べると、ドビュッシーのころは烟るような音色と細かいデュナーミクを使っているのですが、のちに封印したことがわかります。マッテオ・ゴフリラーの音色がピキッと聞こえる方向に進んだという印象です。

いい楽器はストラドとグァルネリだけじゃない

まとめ。

僕がほんのちょっと聞きかじった範囲では、ジェニファー・パイクはストラドとグァルネリ以外の楽器の魅力を最も大きく引き出している人です。

ディラーナ・ジェンソンのサミュエル・ジグムントヴィチも素晴らしいのですが、ジェンソンには「弘法筆を択ばず」と言いたい潔癖さがあるのに対して、パイクは「マッテオ・ゴフリラーでなければこの魅力は出ない」と思わせるシンクロ感があります。

よくある「ストラドなんでそこはひとつよろしく」と言わんばかりの演奏にがっかりしたことがある人におすすめです。